経営労務監査とは、法令違反を中心として、幅広くコンプライアンスチェックを中心に行うものです。
対して人事・労務デュー・デリジェンス(Due Diligence、以下DD)は、M&Aや事業承継の際に必要に応じて行うもので、サービス残業等労働債務を中心として行うケースや、人事制度や賃金制度が合併などを実施した場合にうまくいくのかという組織診断を中心に行うケース等があり、乱暴に言い切ると、企業の<身辺調査>のようなものです。
「提出された決算書が正しいか」「そこに記載されていない負債はないか」「不正な経理処理がないか」など、M&Aや事業承継の際に、外部の専門家の目で会社を適正に評価していき、そこで問題が発見されなければ、晴れてM&Aの成立となるわけですが、人事・労務面にも、さまざまなリスクが隠れており、それを発見するのが人事・労務DDです。
以前は、DDと言えば主にその会社の<財務><法務>を中心として行われてきましたが、近年、サービス残業をはじめとする未払い残業代や、労使間の様々なトラブルが、企業の隠れ債務としてM&Aや事業承継に大きな影響を及ぼし、特に労務面でのDDの重要性は増しています。
例えば、買収しようとしている会社に、(故意であるかないかにかかわらず)従業員に対する<未払い残業代>があったとします。そのことを知らぬまま、M&Aが完了するとどうなるのでしょうか?
その未払い残業代を支払う義務は、買収した会社側に移ります。その他<社会保険料の滞納><退職金の積立不足><安全配慮義務違反による損害賠償請求>など、労務周りにおいて重大なリスクが隠れているケースは多数あります。
そしてそれは、従来の財務・法務中心のDDでは発見することが難しく、例えば給与だけを例にとっても「割増賃金の対象となる賃金、ならない賃金」「給与計算時における賃金や、労働時間の端数処理」の正確な把握など、特別な専門知識を持ったわれわれ社会保険労務士の出番となる訳です。